#3
指先の皮の外側薄皮の指紋すら潰れて記憶となるような丘陵のてっぺんが、シルヴィアの冷たさに触れた時、ジャックは冷たい透明のガラスの中で凍える脳を発見する。彼は完全なる氷結状態、哀しさ、怒り、勘繰り、失念、勃起。全てがMAXを叩き出し到来したこの世界、溢れすぎて何も掴めない。光が強すぎて太陽がどこにあるか、目を向けられない。この部屋に入ったら目を瞑るしかなく、瞼の裏の赤さはジャックが何か、強い身体的拘束の中にいることを伝え、赤さを穿つ黒点を見つけよう。そう、一筋の光を見つけたくて、ジャックはその大陸のある空間-バークリーのアパートの一室をそして囚われる体を肉声でかき分けようと一気に体全体を震わして、声を出すのだ。音と振動が、透明の沈黙を引きちぎると思った。
「Shi〜〜〜プシュわぁ〜うおーーはー」
音の後にくる、記号のダンス
「熱、どこに消えたんだ。あああの生命を讃える熱!heat!wave!warmth of the sun!
この冷たさ、おれのシルヴィア!その暖かさはいまどこにいる!この宇宙、熱の総量は変わらないはずだ熱力学のプリンシパル、今この時間、シルヴィアの熱はどこにあるんだぁー!?」
答えは静寂。沈黙が訪れたと、わたしはおもったがジャックにとっては否。この瞬間の宇宙に答えがあった。窓の外の鳥たち、上の階のバーチャルダンシングチャネリングオーガズムチェアが生む振動の天井の撓み、東洋の茶の濁り、異星人の淫らでhotな夜這いにも、この瞬間のあらゆるものに。この光、さっきの光の目を眩ませるような、瞼の赤みに囚われるような、氾濫して目に負えないもののようで、妙に近いところにあるから、さっきと違い何か太陽の中にいるような気がする。この瞬間の全てからジェットパックが宇宙の未来へかけていくような気がする。そんな大きいが近くにある光。
「シルヴィアの暖かさはあいつの身体が暖かいからということに限らない。そんなに人間は律儀でない。オレが肌に触れた時、あの柔らかくハリのある美しい白い肌、そしておれのゴツゴツな肌のあいだ、2人のエネルギーが衝突し、ひっつきあっては離れ合う、小さな蕾ははじけて暴れだし、汗も血も涙もオーラも愛の感情のノマド1粒1粒も全て渦になって、その肌と肌の界面、混ざり合う今ここで、新しいビックバンが起こるんだ!互いを愛するエネルギーの衝突、交合、そして爆発。おれのあいつを愛するエネルギーよりも暖かく、大きく、やさしく、美しいエネルギーが2人の身体に溢れてくるんだ!ああ死よ!どうしよ!こうしよ!うおうわぁ」
「死。シルヴィアから溢れるエネルギーは、この煤に冷え切ってしまった。爆発はだから起こらない。おれのエネルギーがあいつに流れるだけだ。それでは2人ともぬるさに落ち着き永遠の半ボッキ。虚無とながらスマホの傍観に世界は包まれ灰色だよ。爆発。それを起こすには、おれも熱を捨て、冷たい暗いエネルギーを放つ必要がある。冷たさと冷たさによる爆発。ブルース、虚数、無意識。」
ジャックの声を聞いた君。君は感じただろう。もうジャックは死ぬしかないと気づくのである。シルヴィアと出会うために、自らも冷たさの闇の中に潜り込み、新たな爆発を生まなければならない。
世界は異様な澱みに包まれた。
床に広がる世界のパノラマ。よどんだレインボーの海、その入江が空間を支配している。彼はサンフランシスコにいるのではない。この砂の大陸ひとつぽっかり浮かぶ海の宇宙にいる。レインボーもよどみがかれば、美しいあの軽さを失う。死を迎えたケミカルは残酷なよどみで、耽美派の趣。
その海に小さくピンクなイルカが跳ねる。
「おれにはわからねえ。なんでお前はこんな汚い海で楽しそうに泳いでいるんだ。お前の楽しさがわからないよ。」とジャックはイルカに話しかける。イルカは、移り変わる澱みのレインボーの光学的な波の揺らぎの上を逞しく飛び跳ねている。その深みに潜るのではなくて、海の表面を踊っている。何かを大気の光の中に伝えようとするように。「なにを食べるのでもなく、なんのために生きるのでもなく、なにかを探そうとするわけでもなく、水の表面を飛び跳ねてるお前に、死はないだろう。水の表面をジャンプするのはお前にとってはものすごく楽しいのだろう。お前だけのこの海だけが最後に残り、飛び跳ねた痕跡、その色と光の揺らぎと粘り気とサラサラの曼荼羅がお前を生かし続ける。お前の意識の外で。そしてお前は苦しむこともない。だけど、海の底の闇から、空に浮かぶ太陽の光をかすかに望み、そこに向かって一直線に飛んでいく楽しさを、お前は知っているのか?」
イルカはレインボーの水の上を跳ねている。水面の模様がマーブルで美しく、ふとジャックはその模様になにかを見たように、身体に何かが走り、熱が。電撃。
イルカは鳴いた。キュキュキュキュキュ。
ヴァル そして シルヴァーピンキー
地球は大きい衝撃に揺れ、熱を放射し、ヴァルを宇宙へ押し上げた。
イルカは、その衝撃に備え、海に深く潜り、熱と共に、大きく飛び跳ねた。その軌道に、水が滴り、激しい光を反射させ、澱みのレインボーは軽さを手に入れて、その宇宙に虹がかかる。キラキラ。やば!ジャックはぶち上がりその光の楽園に目をやられそうな手前で、イルカはサングラスに姿を変えて、ジャックの鼻のてっぺんに着地。sorry for party rocking
シルヴァーピンキー そして ヴァル
